鶴見済『0円で生きる 小さくても豊かな経済の作り方』レビュー

自分の時間を生きる―小さくても豊かな人生の取り返し方―

『完全自殺マニュアル』と本書『0円で生きる』は正反対の本に見える。一方が死、もう一方が生を連想させるからだ。なるほど表面的にはそうかもしれない。だが注意深く読めばもっと別の見方ができると気づくだろう。両者の異なる部分、変わらない部分を見ながら本書の魅力を考えてみたい。

まず異なる部分は、死と生という違いにあるのではない。そもそも『完全自殺マニュアル』は「イザとなったら死んじゃえばいい」と力を抜くことで、何とか生きのびようという本である。タイトルやマニュアルという形式をもって、死がテーマであるかのように早合点してはいけない。

本当の違いは、本書は何とか生きのびるというレベルを越え、より良い人生を追求している点である。「お金がなければ幸せになれない」……そんな価値観に支配され、生きる意欲をなくすのはやめよう。0円がもたらす豊かさに目を向け、生きることへの興味を感じよう。そう主張するのである。

単なる節約術との決定的な違いもここにある。贈与や共有や自然界とのつながり等々、お金への依存度を下げる工夫が説かれるのは、お金をトクするためではない。お金を使わないことを通じ、生きることへの興味を取り戻すためなのだ。「奪われたものは自分で取り返す」(『檻のなかのダンス』)!

今度は変わらない部分を考えてみよう。それには映画『猫の恩返し』のこの場面が参考になる。猫の国へ連れ去られ「猫になってもいいかも」と思い始めるハル。彼女を助けに来たバロンは猫になりかけたハルを見て言う。「ダメだハル、自分を見失うんじゃない。君は君の時間を生きるんだ」――。

『完全自殺マニュアル』でも『0円で生きる』でも変わらないのは、このメッセージではないだろうか。「強く生きろ」だの「お金がなければ幸せになれない」だの、そんなものに人生を奪われるな、自由であることを諦めるな、と。自分の時間を生き、小さくても豊かな人生を取り返そう。

トップページに戻る